三塁を蹴る

140字以上書きます

ナラズモノになれなかった人のために

よお最近どうですか、大学に入ったそうじゃないですか、はじめて聞いたときは正直ちょっとビックリしたっていうか、安心したっていうか...... いやちゃんと正直にいうよ、正直にいうならガッカリもしたんだよ、あれだけの才能を持った奴がって...... 当時は嫉妬もしてたんだよ。なあ、アイツとももう別れたんだろ、お前にはなにひとつ勝てなかったよ、だからお前にはどこまでもいって欲しかったな......

なにひとつ勝てなかったけど、ひとつだけ、互角だったって思ってることがあるんだぜ。それはね、熱意だよ、パンクに賭ける...... お前の言葉を借りればアティチュードってやつかな。てかあれ、本当はジョーの言葉だろ、クラッシュの。なにお前のオリジナルみたいにしてんだよ。

まあそれはいいや、とにかく俺らのパンクに賭ける想いは本物だった。いま思えば馬鹿みたいにあらゆる事に対して怒ってたな、お互いに、競い合うようにして怒ってた。お前が公衆便所の「もう一歩前にお進みください」の張り紙に怒ってたときはなかなかやるなと思ったよ。負けじと俺も、前に立つだけで馴れ馴れしく話しかけてくる自販機なんかにキレたりしてた。本当はもっと他に怒るべきことはたくさんあったはずなんだ、例えば夏のギラギラした空気が一瞬で過ぎ去ってしまうこととか、好きな子の名前を書くのに辞書を開かなきゃいけなかったこととか......

俺は就職活動なんてしてるよ、信じられるか?毎日毎日クソ暑いなか真っ黒なスーツ着て、ネクタイ締めてさ、そうそうネクタイの締め方二通りも覚えちゃったよ、説明会のときとかの軽いのと、面接のときのためのなんて、本当高校のころの俺たちに見られたらブン殴られちゃうよグレッチでさ。お前ならレスポールかな。

この前の面接でさ、一番自分らしさを表現できるもの持ってこいっていうから、持ってったよギター、ずっと触ってなかったからもう全然自分らしくないんだけどさ、なんでかなこれしかねえって思った。

 

で、面接室にギター背負って入ってさ、ドアに引っかけたりして、あ、スミマセンとかヘラヘラしてさ、俺マニュアル本通りにずっとニコニコしてんだよ、ぶっ殺してやりてえよなホント。なんかごめんな。

そんで面接の途中で「じゃあちょっと、弾いてみてもらえますか」とか言いやがんだよ面接官がさ、真顔で言いやがるんだよ、ピシッとキメた、わりと好青年な雰囲気のやつがさ。俺も俺で「あ、じゃあちょっと少しだけ、失礼します」とかいってギターケース開けてんの、ニコニコしながら。で俺はシドのカヴァーした『マイ・ウェイ』を弾いたんだよ、よりによって『マイ・ウェイ』!そんなのいまの俺に弾けるわけがない、I did it my wayなんて、そんなこと歌えるわけがない......

でも俺がワンコーラスやってギターを降ろしたら、面接官のやつらは「すごいですね!」「聴きいっちゃいました!」とか言ってきて、それも、どうやら、本当にそう思ってるらしいんだよ。

 

そして

俺は、急にブチ切れた!ギターを掴んでめちゃくちゃに振り回して、壁や床や窓や、机やその上に乗っかってる俺の履歴書やその片隅で恥ずかしげもなく笑っている俺の証明写真に打ち付けまくった!歪ませまくった爆音を掻き鳴らしながら、狂ったように目に映るすべてに怒りまくった!怯える面接官たちを尻目に部屋を飛び出し、外で待機しているスーツどもに向かって無差別に激情を吐き散らした!

そして、俺は......

 

俺は、そっとギターをしまって、面接官の賞賛にニッコリと応えて、そして普通に面接の続きを受けた。壁も窓も壊れてなかった。相変わらず面接室はジメッと暑苦しくて、面接官の声と俺の返事と、さらさらとメモをとるペンの音以外はひっそりと静かだった。そのあとは特に盛り上がりもなく面接を終えて俺は部屋を出て、外の受付の人に面接を終えたことを伝えて、その人は俺の次の番号を呼んだ。

 

呼ばれたやつと一瞬目があって、俺はハッとした。胸の奥のほうが張りつめた。そいつはギラギラと輝く目をしていた。