三塁を蹴る

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あの停電

あの停電があったとき俺は新宿を歩いていました。その晩は恋人と喧嘩して、というか泣かせてしまって、なんなら別れるとかいうワードも飛び出してきて、本当は泊っていくつもりだったんだけど終電なくなってんのに追い出されて、マジかよと思いつつまあ深夜の散歩も好きだし家まで歩いて帰るかってなって、せっかくだったんでスマホの電源も切って黙々と歩いてました。

恋人の家は四ッ谷にあって俺は中野に住んでいたんで新宿のど真ん中を突っ切ったんですけど、あんまり深夜の新宿って行ったことなくて、最近はかなり治安良くなったって聞いてたけどそれでも見るからにヤベーぞみたいな人も結構いて、そんなときに限って無料案内所に無性に入ってみたくなったりするんですけどもちろん入らなくて、っていうかもはやノールックで、夜の新宿とかもう見飽きちゃってるんですけどみたいな余裕オーラ放っていくことで事なきを得ようっていう作戦で臨んだんですけど。

っていうかいま何時だよっていう、スマホの電源切ってたんで、でも新宿って夜になっても、眠らんぞ、みたいな、いつでも全力だぞ、みたいなテンションでくるから全然時間わかんなくて、ネオンとかガンガンついてるしキャッチもなんかべしゃってウケてるし、それでいったん時間が気になりだすとすごくもう、いてもたってもいられない感じになって、でもスマホつけて恋人からめっちゃLINEとかきてたらちょっと心に良くないな、っていうか、この深夜の散歩の雰囲気が違う感じになっちゃうなって思ったんで、コンビニの時計を見ようって思ってセブンに入ったら、なんか、時計無くて。

え、そういえばコンビニって時計ないんだっけってなって、店員に時間きくのもアレだしな、とはそのときはまだ思ってなかったんですけどふとレジを見たら二人いる店員が両方東南アジアっぽい感じで、てか最近コンビニの店員で日本人みたことないぞとか思ったタイミングで、店員に時間きくのもアレだしなってなって、でもそのとき一人と目が合っちゃったんで、店員と目が合ったら買い物しなきゃいけないってわけでも全然ないんですけど、カルピス買って、出ました。

いや俺さっき恋人の家でもカルピス飲んでたじゃんって思ったけどまあカルピス好きだしいっか、っていうかあのカルピス全然飲んでないのに置いてきちゃったけど、恋人はもしかしてそのあと飲んだりするのかな、さすがに捨てるってのはもったいないレベルで残ってんだけどなって思って、そのあとしばらくは音楽プレイヤーも忘れてきたせいで音楽が聴けないということに気づいて呆然としてたんですけど、新宿の一番華やかなところを抜けて、明るいけど人はいないぞみたいなとこに来たら、残してきたカルピスが急にすごく気になって、どうせだから時間みるついでにカルピスの話をきいて、さらにそのついでに謝っておこうって決めてスマホの電源をつけました。

そしたら時間は02:16で、わりと感覚と一致してたからぜんぜん面白くなかったんですけど、でも俺の感覚もなかなかやるじゃんって思ったりしつつLINE開いたらメッセージはなかったんだけど一つだけ不在着信がきてて、それが02:14で、マジかこれ、もうちょっとはやくスマホの電源つけてたら取れたのかよって後悔して、でもすぐに掛けなおしたら2コールくらいで出てきて、あわてて掛けなおしたから最初になんて言うか考えてなかったというか正直謝ることはなぜか忘れていたからカルピスのことしか話題が残っていなかったんで「カルピス飲んだ?」って言って、「え?」って言うから「置いてったじゃんカルピス、まあいまも飲んでるんだけど」とか意味不明でちょっと怖いぞコイツって感じなんですけどそれでもなんか伝わったらしくて、「あー冷蔵庫入れといた」って、確かにそりゃそうだよな、なんで飲むか捨てるかの二択だったんだよってなったところでやっと「さっきはごめんね」って言って、なんか返事がなかったから、「ごめんてー」って今度はちょっとおどけて言って、でもガンシカされてっからおいおいと思って画面見たらなんか通話切れてんぞっていう。

俺そんなあれ?そんなマズい対応した?って思ったんだけど、なんか遠くで叫び声がして、なんだよって顔あげたら周り真っ暗になってて、一瞬なぜか、お?俺、いま目覚めたのかなってなったんですけど、そんなわけないぞバカかお前はってセルフツッコミしてるうちに目が慣れてきて、そしたら、いつか森ビルの展望台から見たような夜景が空にあって。

世界ひっくり返ってんぞってウケたけど、普通に星で、星じゃんって思って、恋人に星見えんぞって教えたかったけど停電してるからやっぱり電波入らなくて、まあ多分恋人も見てんだろって思ったんで、だから、なぜか「恋人も見てるだろうから、だから」って思って、俺も星を見上げてました。

停電はほんの数十秒、いやもしかして十数秒?だったけど俺的には結構な長さに感じられたんだけど実際のところ電波が回復した後に恋人に電話し直したら全然星とか見てないとかいうんで、マジこいつ信じられんなって思ったんですけど、なんかカルピス飲もうとした瞬間に真っ暗になったからカルピス床にぶちまけちゃったらしくて、わーってなってる間に停電終わったっていうから、まーそれならしょうがないなっていう。

でそれで普通に会話しちゃってるからなんか喧嘩?も一旦休戦?みたいな風になって、そしたらやっぱり恋人の家に戻るのかっていう、ちょうど自分の家と恋人の家との中間地点だから、本当はどっちでもよかったんだけどこの流れで恋人の家に戻らなかったら、それってなにかを「選択」したみたいになって、俺はただ一つのベッドで二人寝るのは単純に狭いよなあとか、ていうか実は人と一緒に寝るのって緊張してあんま眠れないんだよなとか色々あるんだけど、でもなんかそれで「選択」したみたいになんのは嫌だなと思って、恋人の家に戻ることにしました。 あの停電のときの話はこれで終わりです。