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三塁を蹴る

140字以上書きます

夜(さみしい同盟を脱退した人へ)

日の出から日没までは日中という言葉で表せるが、それでは日没から日の出までを表す言葉はあるのだろうかと誰かが考えこんで眠れなくなった夜に〈さみしい同盟〉は結成された。

なんてことはないただのLINEグループ、さみしい人が集まり、寝られない夜に「さみしい」と投稿すれば他の寝られないメンバーが反応してくれる。大抵のメンバーは寝られないから誰からも反応がないなんてことはない。というか最初は数人で発足した同盟もいまでは百人を超え、二十四時間誰かしらは必ず起きていたので、いくら深夜の投稿でも数秒で十数の既読がついた。

いったいみんなどれだけさみしがっていたんだ?

メンバーは日に日に増えていきこそすれ脱退する人はいなかった。わざわざ発言しなくても、誰かと誰かが会話しているのを見ているだけでもさみしさは和らいだ。なんだ、みんな眠れないんだねえ、今夜は特に流星群が見られるとかでたくさんの人が起きている。数十年に一度の規模ということで、ぼくもずっと窓から空を見上げているけれど星は流れない。グループの人たちもまだ観測を報告した人はいない。


そのまま三時間経った。


おかしくないか、もうすぐ朝になってしまう。グループの人たちもまだ誰も見つけられていない、だんだん苛々してきたみたいだ。みんな楽しみにしているのに。ちょっと前まで、流星にかける願い事を何にするかで盛り上がっていたのに。誰かが十文字投稿した。


「夜に寝られますように」


それからもう十数分、誰も投稿していない、みんな寝てしまったのか。夜はまだ明けない。久しぶりにさみしい夜だ。いつもはみんなの会話が楽しくて寝るのが惜しいのに、いまは一刻でも早く寝てしまいたい。空の色調が僅かに変わり始めた気がした。実際はまだそんな時間じゃないとわかっていても朝がこわい。

朝がこわい。カーテンを閉じた。

投石で窓ガラスが破られるように新着メッセージ。


「やっと流れ星見えました!(≧∇≦)」


それを皮切りに怒涛のように観測報告が起こった、ぼくも慌ててカーテンを開くと、夜空は長時間露光したみたいな星の軌跡で埋め尽くされ、銀河間で宇宙戦争が起こったんじゃないかと思うほどだった。後で思い返すとちょっと寝惚けてたんじゃないかって気もするけど。


暫くぼうとしてグループに目を戻すと、さっき最初に観測報告をした人はグループを退室していた。最初の退室者だった。


あれから数日経って、他にもぽつぽつとグループを抜ける人はいた。さみしくなくなったのか、通知が煩わしくなったのか、前から抜けるつもりだったけど誰も抜けなかったからきっかけが掴めなかったのか、わからない。抜ける人は黙って、決まって昼過ぎとかなんでもない時間に抜けていった。「夜に寝られますように」とあの日投稿した人もいつしか抜けていた。

ぼくは迷ったけど抜けないことにした。自分でいうのもなんだけど、さみしいから、弱いからそうしたわけじゃないって考えている。じゃあなんだって訊かれると難しいんだけど、多分、それは、愛おしいからだ。


誰かが、「それは夜だ」とつぶやいた。〈さみしい同盟〉はいつのまにか〈夜の会〉と名称を変更されていたが、そのことについて誰も言及せず、いつもの通り無音の談笑が続けられていった。